1月19日(土)に映画のイベントを行ないます。
夜の営業時にお店の片隅にあるパソコンでDVDを流すだけですが、おしゃべりしながら一緒にいい映画を観るのはきっと楽しいでしょう。
さて、第一回はイタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督1971年の作品『ベニスに死す』です。
ヴィスコンティの映画には様々な要素が詰め込まれていて、知識があればより理解しやすいけれど、何も知らない人にもなんかわからん強烈な印象を残す、そんなビジュアル力があると思います。
『ベニスに死す』はトーマス・マン原作で、ヴィスコンティは生涯に『地獄に堕ちた勇者ども』『ベニスに死す』『ルートヴィヒ』とドイツ三部作といわれる作品を撮っています。(ミラノの貴族であるヴィスコンティにとってドイツは特別な存在なのです)
そして残念なことに実現はしませんでしたが、彼はトーマス・マンの『魔の山』の映画化を考えていました。マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』(これは脚本もあります)と、この2つをもし彼が撮っていたら、素晴らしいものになったのではないでしょうか。
『ベニスに死す』の音楽はもちろんマーラー(主人公のアッシェンバッハはグスタフ・マーラーをモデルにした老作曲家)です。この映画で使われたことでマーラーの交響曲第5番第4楽章アダージェットは知らない人がいないほどポピュラーになりました。
コレラが蔓延する退廃都市ヴェネチアが舞台で、お洒落なリゾート地(リド)や瀟洒なホテル(オテル・デ・バン)、打って変わって消毒液の匂いが画面のこちら側まで漂ってくるような裏通り。この映画はベニスの光と闇を描いたPVでもあります。
世紀末のファッションを見事に現代に蘇らせたピエロ・トージの衣装デザインの完成度の高さは、この衣装抜きではこの映画が成り立たなかったろうとさえ思えるほどの素晴らしさです。
美少年タッジオの家族の服はもちろん、アッシェンバッハのクラシックなスーツ姿は今見てもとてもシックで日本でも、雑誌スタイリストたちが絶賛したものです。
タッジオの母親役のシルヴァーナ・マンガーノの息を呑むような美しさ、これはヴィスコンティの母親の投影と言われています。
この映画でヴィスコンティは自分の子供時代と大好きだった母の思い出をスクリーンに残したのでしょう。ヴィスコンティの『失われた時を求めて』ですね。
もちろんタッジオ役のビョルン・アンドレセンの美しさだけでも一見の価値がありますし、ヴィスコンティ流の上流階級と下層階級双方への冷徹な眼差し、そして芸術と美の問題など、いろんな角度から楽しめる映画です。
ベニスに死すを知っている人も知らない人も、この土曜はぜひお店においでください。お待ちしています。
1月19日(土)夜7時から上映で、そのあと11時まで営業しています。
※これから毎週土曜日にヴィスコンティの映画を上映(?)する予定ですのでお楽しみに。
画像左はセーラー服のタッジオと楕円の中は幼い頃のヴィスコンティ
右はシルヴァーナ・マンガーノに母親の仕草をレクチャーするヴィスコンティ